うちの夏の音


うちの夏の音


 ジリジリジリジリと虫の鳴き声が聞こえると夏が来たなあ、と思う。
 蝉なのか、ほかの虫なのか、はたまた鳥なのか。いろんな音が混じっていてはっきりしない。夏にしか聞けない音だ。

 子供の頃はその中に、地面が太陽の光で焼ける音も混ざっているんだと思っていた。
 いまでも少し、そう思っている。


「しかし、暑いですねー」

 うちの庭で、僕は汗をぬぐっていた。

 ちょうど晴れていたので草刈りをしているところだった。僕の手には剪定用の大きなはさみがにぎられている。

 これは本来、木の枝を刈り込んだりするときに使うものなのだと思う。だけど僕は地面に生えている草を切るときに使ったりもしていた。これだとどんどん草を切ることができて、面白いのだ。

 ジョキジョキジョキ。

 僕が軽くはさみを動かすだけで草の束が地面に積もっていく。根っこが残ってしまうから対処療法にしかならないのだけど、まあそれならそれでいいや、と思っていた。

 地面にうずくまるような格好で、夢中になって草を切っていると、頭の上から夏の音が聞こえてきた。

 ジリジリジ……ブウゥーンブウゥーン……ジリジリジブウゥーン。

 ――あれ? いまの音、なんかおかしくないですか?

 僕は頭の上を見上げた。
 大量の小さな黒い影が、僕のすぐ近くを飛び回っていた。

 ――ハ、ハチじゃないですか! しかも大群!

 ものすごい数のハチが飛んで、ブウゥーンブウゥーンと異常な音をたてていた。

 とっさに身を伏せて頭を隠した。
 飛び回っているのはミツバチのようだった。庭の木の中で一本、花が咲いている木があって、その花に群がっているようだった。

 ――殺される! 気づかれたら殺されてしまう!

 伏せたまま、じわじわとその場から逃げ出した。
 そうして息を潜めている僕の横に、うちの猫がそっと近づいてきた。

(見てください。ハチです。あいつらをやっつけられますか?)

 うちの猫は草の中に顔を突っ込んで、食べられる種類の草を探しているようだった。

(ちょっと、気づいてるでしょ! 小鳥にはあんなに反応するのにどうしてハチには無関心なんですか!)

 猫は僕のことを無視して、探しものを続けていた。ときどき草の先が鼻の穴に入りそうになって、「もう、なにこれ」という表情で顔を振ったりしていた。


 ミツバチ(たぶん)は花の咲いている木にしか興味がないようだった。ほかのところに移動する様子はない。
 そうやって観察していると、今度はポッチャリが近づいてきた。

(ちょうどいいです。ハチをやっちゃってください!)

 ポッチャリは僕の事を無視して辺りのにおいをかぎまわっていた。そういえばこの子はいつもにおいばかりかいでいるな、と僕は思った。

 うちの猫とポッチャリが2メートルくらい離れて地面に寝転んだ。緊張している僕とは反対にずいぶんリラックスしている様子だった。それぞれ毛づくろいをしている。

 ひとりと二匹。ちょうど三角形ができる位置につくことになった。その三角形の頂点、ハチの群れに一番近いのは僕だ。

 前進と後退を繰り返しながら、僕は観察を続けた。どうしてこんなに観察をしているのかというと、ハチの巣がどこかにあるかもしれない、と思ったからだった。

 ――巣ができていると大変ですからね。業者に頼まないといけません。

 角度を変えたり、中腰になったりして確認をした結果、どうやらハチの巣はないらしいということがわかった。

 ――それなら、花が散ったらもうハチは来ないかもしれませんね。下手に刺激すると危ないですし、今日のところは撤退しておいてあげますか。

 十分に蜂の群れから離れたところで、僕は立ち上がった。
 ひと仕事終えてやりとげた気持ちになっている僕を、二匹の猫は「なんなの、このひと」という顔で見つめていた。

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小説家になろうに、猫のエッセイを投稿しています。
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