うちのこわいもの知らず


うちのこわいもの知らず


 庭に置かれた小さな椅子に腰掛けて、ぼんやり夕焼けを眺めていた。
 遠くの空が赤くなっている。
 反対側はもう夜の色だ。

 ――えっと……夏と冬、日が沈むのはどちらが早いんだっけ?

 この日は暑くも寒くもなくて、のんびりするにはちょうどいい気温だった。

 ――地軸が傾いてて、それが公転して季節が生まれるわけだから……つまり?

 答えの出ない疑問を考えるのはいい暇つぶしだった。
 ふと見ると、うちの猫がそばに座っていた。
 手が届かない距離をしっかり把握しているようだ。
 僕の伸ばした手が空を切る。

「もう遊ぶのはいいんですか?」

 声をかけるとパチパチと瞬きをして、大きなあくびをした。
 もう十分遊んだようだ。
 
「じゃあ、そろそろ家に帰りますか……」

 そのときだった。
 フォンフォンという音とともに、何かが通り過ぎていった。
 空のかなり低いところを飛んでいったようだ。
 風を切る音が間近で聞こえていた。
 驚いて、空を見上げる。  

 ――なんですか!?

 隣の家の屋根に降り立った姿を確認して、ようやく正体がわかった。

 ――カラス……しかも、大きい!

 うちの猫よりもはるかに大きなカラスだった。
 屋根の上のスペースは、このカラスには手狭なようだった。
 落ち着かない様子で足踏みをしている。

「あんなに大きなカラスがいるんですねえ……」

 とうちの猫を見ると、ひげをピンと伸ばして、目を大きく開いて、カラスのほうを見つめていた。
 獲物(おもちゃ)を見つけたときの顔だった。

「あの……絶対無理ですよ。屋根の上で捕まえられないし、スズメとは大きさが違うのがわかるでしょう……。獲物どころか、やられちゃいますよ……」

 僕の言葉はうちの猫には届かなかったらしい。
 屋根を見上げながら、トコトコと歩いていってしまった。

 しばらくして、カラスが飛び立った。
 僕がいる方角、最初に飛んできたほうへ向かって羽ばたいている。
 フォンフォンという音を残して、見えなくなってしまった。

 ――巣に戻ったのかもしれないな。

 そのままなんとなく空を眺めていると、うちの猫が帰ってきた。
 カラスが消えた空を見上げて、「うぅん、うぅん」と鳴いている。
 ちらちらと僕の顔を見ながら。 

「僕に要求しても無理ですよ……。捕まえられません。そもそも無理な獲物だっていうことを見極めましょうよ……」

 そういえばこのあいだの靴下猫のときも勝てる気でいたみたいだった。
 ちゃんと見極めることができないと、いつか痛い目を見ることになるかもしれない。

「勝てない相手と喧嘩したらダメですよ。わかりますか?」

 あいかわらず僕の話は聞いていない。
 うちの猫は空を見上げて首をかしげていた。
 どこかに隠れているはずだと思っているのかもしれない。

「あきらめましょう。そろそろ帰りますよ」

 と僕が背中に手を伸ばした瞬間、

「じゃましないでよね!」

 というふうに、「フシャー!」と威嚇をして、僕の手をぺちんと叩いてきた。
 
 ――なるほど、僕には勝てる気でいるみたいですね。

 それはまあ、間違っていないのかもしれない……。

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小説家になろうに、猫のエッセイを投稿しています。
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うちのかわいいかわいい猫
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