うちのトカゲ指導


うちのトカゲ指導


 だんだん草が伸びる季節になってきた。
 こういうときは、少しずつでも草刈りをやっておいたほうがいいらしい。お隣の奥さんが、そう言っていた。実際、草の伸びかたがはやくなっている気がする。

 そういうわけで、僕は庭の草を植木バサミでちょきちょきしていた。これではまたすぐに生えてくるのだけど、やらないよりはましだろうくらいの気持ちで、気楽に草を刈っている。
 夕方、ちょっと時間があるときに、庭へ向かう。今日はこの区画。次はこの区画。というように、スペースを決めて少しずつ進めている。
 毎年、こんなことをしているような気もする。

 そんな作業をしている僕のもとへ、シマシマシッポがトコトコと歩いてきた。ほんの数日で、僕を見つけると、こうして近寄って来るようになった。ずいぶんなつかれてしまったみたいだ。

「あうあう」

「こんにちは。相変わらず怒っているみたいな声ですね……」

 行動はまったく怒っているようではない。近くをうろうろして、僕の足に背中をこすりつけようとしている。

「嬉しいんですけど、いま草を刈っていますからね。あぶないんですよ……」

 シマシマシッポはなんの警戒もせずに、植木バサミの周囲をうろうろする。なので、僕が気をつけなければならない。

「もう、これじゃあ草刈りはできませんね……。今日はおしまいです」

 と植木バサミを倉庫に持っていくと、これにもシマシマシッポがついてきた。

「あーお」

「はいはい。また今度ですよ」

 玄関のドアの前まで、シマシマシッポは「あーお」と鳴きながらついてきてしまう。
 
「ここに入ったらダメですからね。また会いましょうね」

「あうあう」

 ドアの前にちょこんと座って、シマシマシッポは僕を見送ってくれた。
 なかなか聞き分けのいい猫だった。




 ――あ、ポッチャリ。

 別の日に裏庭へ行くと、猫が座っていた。ヒョウのような、黒を中心にしたまだら模様。見慣れた柄の太った猫、ポッチャリだ。

 ――こうして見ると、シマシマシッポよりもかなり大きいですね。

 ポッチャリの近くにはシマシマシッポが座っていた。
 比べてみると、違いがよくわかる。毛皮の柄は同じで、大きさが違う。ポッチャリをそのまま縮めたような見た目で、ほかに違う部分は、シッポくらいだ。

 ――親子なのかな……?

 ケンカをすることもなく、ちょっと離れた場所で、二匹はくつろいでいた。
 僕の足音に、二匹はピンと耳を立てる。
 立ち止まって観察していると、トコトコとシマシマシッポが僕に近づいて、からだをこすりつけた。
 ポッチャリはそれを少しのあいだ見つめて、

「じゃあ、まかせたから!」

 というようにどこかへ走り去ってしまった。

 ――いや、まかされても……。

 仕方なく、シマシマシッポと遊ぶことになる。
 おかげで、さらになつかれてしまった。




 さらに別の日。
 うちの庭でボスが寝転んでいた。
 近くにはシマシマシッポがいる。

 ――なんか近所の猫と馴染んでますね。仲良くしているのはいいことです。

 シマシマシッポは地面を叩いたり、飛び上がったりして遊んでいる。
 ボスは目を細めて眺めているだけだ。全然動かない。

「何してるんですか?」

 よく見てみると、シマシマシッポの前足の先には、ぐったりしたトカゲが横たわっていた。

 ――おお、トカゲですか……。

 シマシマシッポがバシッとトカゲを押さえて、ガジガジと噛み始める。
 あま噛みではない。
 噛み砕こうとしている。

 ――おおお……。ちいさいけど、野良猫なんですね……。

 するとボスがすうっと立ち上がり、

「あとはまかせた!」

 というように目をパチパチさせて遠ざかっていった。

 ――いや、これ、どうすればいいんでしょうか……。

 目の前ではシマシマシッポが一生懸命トカゲを噛み砕いている。噛みながら鳴こうとするので、

「アルルルゥ(ガジガジ)ンアンオゥ(ガジガジ)」

 とわけのわからない鳴き声になってしまっていた。
 食べ終わると、口の周りをぺろりとなめまわす。そして、僕のことを見上げる。
 じっと何かを待っている。

「あ……はい、よくできましたね」

 と僕は頭を軽くなでた。
 シマシマシッポは満足した様子で、

「あうあう!」

 と鳴きながら、元気よく草むらに飛び込んでいった。

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