優しい泥棒と、お腹を空かせた猫


優しい泥棒と、お腹を空かせた猫


「また盗んできましたね……」

 うちの裏庭で、焼き魚をくわえているボスの姿を見つけた。
 正確にいうと、焼く前の魚だろう。なかなかの大きさだ。ボスの口からはみ出ている。
 ボスが僕に気づいて口を開く。

「ニャウ!」

 ぼとりと地面に魚を落としていた。

「こんにちは。……そうやって盗みを繰り返してると、この辺に住んでいられなくなっちゃいますよ」

 僕の言葉は気にせず、ボスは地面の魚を手で押さえて、食いちぎっていた。

 ――おお、さすが野良猫ですね。豪快な食べっぷり……?

 ちぎったのはいいのだけれど、うまく食べられないようだ。かむたびに口からぽろぽろこぼしている。

「ええ? 食べるの下手すぎでしょう。いままでよく生きてこれましたね。でもバッタはちゃんと食べられてたのに、なんででしょう……?」

 もしかすると魚は普段あまり食べないから、食べ方がわからないのかもしれない。
 食べやすそうなところを食べて、ボスは満足げに歩いていった。地面には残骸が散らばっている。

 ――まだ残ってるのに……。こんな食べ方をするんですか。意外でした。そして、あと片付けは誰がすると思ってるんですか……。

 もうボスは見当たらない。仕方なく、僕はホウキを倉庫から取り出した。




「あら、ポッチャリですか。久しぶり……?」

 ボスがいなくなったあとにやってきた猫を見て、僕はあいさつをした。ちょうど魚の残骸を片付け終わったところだ。
 黒い特徴的なまだら模様は、間違いなくポッチャリのはずだ。
 だが、以前見たときと印象が違う。

 もっと太っていたはずなのに、いまでは普通の猫くらいの体型だ。顔は頬がこけたように、げっそりしている。
 歩き方もおかしい。少し飛び跳ねるようにして、ゆっくりゆっくり近づいてくる。
 よく見ると、前足の先を怪我しているのだ。毛皮がはげて、ピンク色の皮膚が見えている。
 この怪我をかばって、変な歩き方になってしまっているのだろう。
 ポッチャリは特に痛がっている様子もなく、普段どおりに、周囲のにおいをかぎまわっていた。

 ボスが残した魚の残骸を見つけたようだ。
 むしゃむしゃとかじっている。
 食べる動作もゆっくりだった。口の動きだけで食べようとしている。

 ――ええ、もしかして、ボスが魚を散らかしていったのって、そういうことなんですか……?

 ポッチャリのぶんを残していたのだろうか、と僕は思った。

 お腹が空いているのだろう。
 ポッチャリは地面のにおいをかぎ続けていた。
 だが残骸はほとんど残っていない。

 ――もう残骸は片付けちゃいましたよ……。知らなかったんです……。

 僕はポッチャリを置いて、家のなかへ戻ることにした。


 うちの猫のカリカリは家のなかの物置にしまってある。カリカリの袋を見るとテンションがあがって暴れてしまうことがあるから、こうして見えないところに隠しているのだ。
 カリカリは大きな袋のなかに、八個くらいの小袋に分けられて入っている。そのうちのひとつを取り出して、ハサミで封を開けた。
 お皿は、ちょうどよいのが見つからないので、うちの猫のものを洗ってから使うことにした。

 カリカリを乗せたお皿を持ってポッチャリのもとへ向かう。
 ポッチャリはさきほどと同じ場所でうろうろしていた。

「はい。お魚は僕が片付けちゃったので……、今回限りです」

 鼻先にお皿をおくと、僕のことをちらりと見つめてから、カリカリを食べ始めた。
 ひどく食べにくそうにしている。
 からだもちいさく震えていた。
 その姿を見ていると、怪我の様子が気になってしまう。

 ――うーん、でも、病院に連れて行くのもどうなんでしょう……。

 金銭的な負担の問題もあるし、毎回そこまで面倒を見られるわけでもない。怪我をするたびに連れていってはきりがないし、飼い猫ではないのに連れていくのも、どうなのだろうという気がする。
 ちょっとしたことならしてあげられるんだけど、と考えているとちょうどいいものを思い付いた。

 ――ああ、そうだ。アロエ。うちの庭にはアロエが生えていますよ!

 アロエさえあればたいていの病気は治ると信じ込んでいる僕は、さっそくアロエを採ってくることにした。


 葉っぱをちぎって、なかの半透明な部分をこそぎ落とす。園芸用のハサミで細かく刻んで、アロエ塗り薬の完成だ。
 
 ――よく考えるとこれを塗ってもすぐに流れ落ちる気がします……。でも、包帯を巻いたら、次にいつほどく機会があるかわからないですし……。うーん、まあ、ないよりはマシでしょう。

 怪我をしたポッチャリの前足をつかむと軽く抵抗をする。ゴム手袋をした手でアロエを塗ると、「ギャッ!」と鳴き声をあげて、ちいさくうなり始めた。
 だが、危害を加えるつもりではないというのはわかるのだろう。それ以上の抵抗はしなかった。

「よし、こんなもんです。はやく怪我が治るといいですね」

 とポッチャリを解放すると、アロエのにおいを熱心にかぎはじめる。
 そして――むしゃむしゃと食べてしまった。

 ――ああ、そうなりますか。そういうことじゃなかったんですけど……。まあ、からだにはいいものですし、これはこれでいいですか……。

 ポッチャリは地面に寝転んで、前足をペロペロと舐めて続けていた。
 落ち着いた様子で、動こうとはしない。

「はい。しばらくここでのんびりしていってくださいね」

 ポッチャリの頭を軽く叩くと、パチパチと瞬きをして、それから大きなあくびをしていた。

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