うちの不安定


うちの不安定


 カリカリカリとドアを引っかく音がした。
 たぶん、うちの猫だ。

「はーい。いまあけますよー」

 と探しても見当たらない。

「どこですかー?」

 音がちいさくて聞き取りづらいせいもあって、うちの猫がいる場所がわからない。
 ひとつずつ家の中のドアを開けて、ようやく正解のドアを見つけることができた。
 うちの猫がいたのはトイレのドアの中だった。

「ニャニャアン……」

 なんだかいつもよりもかわいらしい声で鳴いている。
 態度も違う。
 元気がないし、怒っていない。
 ひとまわりちいさくなってしまったように思えてしまう。
 僕の足にからだをこすり付けて、シッポをプルプル震わせていた。
 
「あはは、もしかして寂しかったんですか? 閉じ込められて?」

「ニャウン……」

「勝手に入っちゃうから閉じ込められるんですよ。今度から気をつけましょうね」

 ポンポンとしばらく頭を触っていると、落ち着いてきたらしい。
 フンッと鼻を鳴らしてエサ入れのほうへ走っていった。

 外では激しい雨が降っている。
 風の音も聞こえていて、嵐のようだ。
 太陽は隠れてしまって、うす暗い。
 空気もひんやり冷たい。
 これでは人間でも、少し不安になってしまう。
 うちの猫も怖かったのかもしれないな、と思った。


 雨があがり、夕食を食べていると、どこかで「ギェェー!」という叫び声がした。
 近所から聞こえている気がする。
 そして、それは猫が喧嘩をしているようにも聞こえた。
 うちの猫が耳を立てて警戒している。
 いまにも飛び出していけそうな姿勢だ。
 僕も食事の手を止めて、耳をすませてみた。
 よく耳をすませてみると、聞こえていたのは「オギャー!」という赤ん坊の泣き声だった。

「なあんだ、猫じゃなかったです。びっくりしましたね」

 とうちの猫を見ると警戒態勢のままだ。

「えっ、赤ちゃんですよ?」

「ウワーオウー」

 という、うちの猫らしくない低いうなり声の返事があった。
 本気で威嚇している声だ。
 顔を低くして、じわりじわりと窓のほうへ向かっている。

「ええ……? やめてくださいよ。赤ちゃんですよ。猫じゃないです。よその赤ちゃんに攻撃したりしないでくださいよ……。それは本気でマズイですからね」

 いつもよりも怖がったり、怒ったり、この天気のせいで不安定になっているのかもしれない。

 ――新しいネズミでも買ってきましょうか。

 なだめようと背中をさすると、思いきりパンチをされてしまった。


 その後すぐに、ボスと会う機会があった。

「ええー! どうしたんですか、それ」

 ボスは顔の右側に怪我をしていた。
 ところどころ毛が薄くなって、赤く腫れている。
 もちろん心配にはなったのだけれど、マンガみたいにわかりやすく怪我をしているので、ちょっと笑ってしまう。

「大丈夫ですか?」

 怪我のところを触らないように、おでこを人指しゆびで撫でる。
 フゴフゴという返事が返ってきた。
 問題ない様子だ。

「まあたしかに大丈夫そうですけど……。喧嘩したんですか?」

 これにはもう返事は返ってこなかった。
 ボスは撫でられるのに夢中になっている。

 ――まさかこれをやったの、うちの猫じゃないでしょうね……。さすがにここまでやることはない、というかうちの猫のパンチ力ではここまでできないでしょうけど……。

 と不安になってしまう。

「攻撃されたら、ちゃんと反撃するんですよ?」
 
 ボスがあんまり喜んでいるので、しばらく撫でることにした。
 怪我をしてしまっているし、たまには思う存分撫でまわしてもいいだろう。
 ボスはフゴフゴ鳴きながら、「ここ! ここを撫でて!」というふうにお腹をつき出してひっくり返ってしまった。
 なかなか大きなお腹だ。
 うちの猫とは違う、野良猫のごわごわした手触りを感じながら、はやくよくなるといいですねと僕は思った。
 アロエも準備してあげたほうがいいかもしれない。

 途中うちの猫が通りかかってにらみつけていたけれど、邪魔をする気はないようだった。
 フンッと鼻をならしてそのまま通り過ぎていった。

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小説家になろうに、猫のエッセイを投稿しています。
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うちのかわいいかわいい猫
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