うちのべったり猫


うちのべったり猫


 廊下を歩いていると、見慣れない物体がある。
 気にせず足を踏み出そうとして、
 
「おおお!?」

 思わず声を出してしまった。
 うちの猫だ。
 うちの猫が廊下にべったりと横になっている。
「もう、何よ!」という顔で見上げていた。
 踏まれそうになった危機感はないらしい。

「何でこんなところで寝ているんですか……」

 あきらかに邪魔な場所だ。
 寝そべってくつろぐ場所ではない。

「ちょっと端っこにいきましょうよ」

 とうちの猫を押すと、体勢を変えることなく滑っていく。
 自分で動こうとはしない。
 抵抗をしようという気持ちもないみたいだ。

 ――もう夏バテですか……。

 そのままズルズルと移動する。

「ここら辺なら大丈夫です」

 とりあえず玄関付近の隅まで押しやり、放置することにした。
 うちの猫は前足、後ろ足を伸ばして「コ」の字を作ったまま横になり、どこか遠くを見つめていた。


 夕食の時間、僕は不自然な体勢での食事を強いられていた。
 左手を置きたい場所は、うちの猫に占領されている。
 テーブルの上で「コ」の字を作って、じっと動かないのだ。
 お茶碗のすぐそばで落ち着いてしまっている。

「あのー、これはどういう状況なんですか?」

 うちの猫は普段テーブルで横になったりしない。
 わざわざこんなに近くに来て寝転ぶこともあまりない。
 いままでに見たことのない、珍しい状況になっていた。
 とはいえ、相手をして欲しいわけでもないみたいだ。
 焼き魚をちらつかせても、お腹をツンツンしても、特に反応がない。
 僕のことを見ているわけでもない。
 ただ邪魔しているだけだった。

「うーん、そこにいたいんなら、それでもいいですけど……」

 結局その日の食事は不自然な体勢のまま食べることになってしまった。


 食事が終わると、僕はうちの猫を抱えてフローリングへ移動させた。
 床に置くと、また「コ」の字になっている。

「このまま放っておいてもらえると思いましたか? そんなに無防備に寝転んでいると……こうしちゃいますよ!」

 お腹をわしゃわしゃと撫でまわすと、うちの猫は「やめなさいよ!」というようにちいさな声で「フウンフウン」と鳴いていた。

「あはは。こんなチャンス、逃しませんよ!」

 うちの猫は起きあがるのもおっくうなようで、横になったまま、前足だけで僕の手から逃れようとしていた。

「ふふふ。そんなんじゃあ、逃げられません」

 ジリジリと、10センチくらいずつ移動するうちの猫を追いかけて、僕はそろそろひっかかれるかな、というくらいまで思う存分撫でまわした。

「あはは。毛だらけになっちゃいましたね」

 撫ですぎで抜けた毛がフローリングに散らばっている。
 それをコロコロで回収していく。
 ついでにうちの猫のからだも直接コロコロできれいにした。
 しかし、それすらもほとんど反応はなかった。
「コ」の字のままだった。
 完全に夏バテになってしまったようだ。

 ――うーん、まあ蒸し暑いですからね。夏バテにもなりますよね。でも暑いのはあと一ヶ月くらいです。頑張りましょう。

 うちの猫をよく見ると、最小限の動きで怒りを表すかのように、横になったまま、シッポを床にペシペシと叩きつけていた。

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小説家になろうに、猫のエッセイを投稿しています。
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