うちのヘクトパスカル


うちのヘクトパスカル


 買い物に出かけると、ひとの姿が見当たらなかった。
 空は曇っていて、どこかいつもと違う。
 不思議な雰囲気だった。

 台風が近づいているせいだろう。
 ヘクトパスカルの見方はよくわからないけど、今回の台風はかなり大きいらしい。

 ――それにしても、昨日は非常食を買いだめするひとたちで、いつもよりもむしろ混んでいたのに……。

 帰り道にもひとはいない。

 ――あれ、もしかして、もう台風が上陸してたのかな。だから、外に出ているひとがいないのかな。

 と首をひねりながら、僕は自宅へと急いだ。

 玄関の塀の上にはシマシマシッポが座っていた。
 ジャングルの白いライオンみたいな姿勢で、ぴんと背筋を伸ばして空を見上げている。
 台風の気配を感じているのかもしれない。

「あはは、台風がこっちに来てますか?」

「フルルーン」

 とのどを鳴らしながら、遠ぼえのような声を出している。
 もしかすると、台風は関係無くて、密林大帝をやりたいだけなのかもしれない。
 軽く頭を撫でて、家の中に戻った。

 しばらくすると、うちの猫も落ち着かなくなってきた。
 窓のそばで「フウーン、フウーン」と鳴いている。

「出たいんですか? 小雨が降ってるし、台風来てるんですよ? 大丈夫ですか?」

 と窓を開けると、うちの猫は庭に降りて、すぐにアジサイの植え込みの下に飛び込んだ。
 ベタリと伏せて、キョロキョロと周囲を見回している。

 ――やっぱりいつもと何かが違うんですね。

 充分に観察して、そろそろとアジサイの下から抜け出した。
 庭の隅の草むらに首をつっこんでいる。
 草に顔をこすり付けて何をしているのか見守っていると、葉っぱを食べ始めた。
 猫草のような役割の草なのだろう。

 ――いまやることでもないような気がしますけど……。

 うちの猫は必死に草を食べている。
 いまやらなければならないことのようだ。

「終わったら帰ってきてくださいねー。台風が来ますからね」

 と声をかけると鼻をならしていた。

 シマシマシッポはいつのまにかいなくなってしまった。
 ボスも見当たらない。
 どこか近くにいるという気配もなくて、静かだった。

 ――台風で吹き飛ばされたりしないといいんですけど……。

 人間でも立っていられなくなったりするのだから、猫は心配だ。
 叩きつける雨と強い風。
 どこかに隠れていても心細いだろう。

 ――逃げこんできたら、家の中に入れてあげましょう。

 と思った。


 自分の部屋に戻って片付けをしていると、窓の外で猫の鳴き声が聞こえた。
 窓を開けて確認する。
 トタン屋根の上に、うちの猫がいた。

「もう、ここから入るのはやめてくださいよー」

 と言って、うちの猫が飛び込んでくるのを待っていると、なかなかやってこない。

「何してるんですか?」

 と見ると、うちの猫は雨で濡れた屋根でツルツル滑っていた。

「ウウーン」

 と悲しそうに鳴いている。
 飛び上がれないようだ。

 ――本当に何してるんですか……。

 ため息をついて、僕はどうやってうちの猫を助けるか考えるのだった。
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小説家になろうに、猫のエッセイを投稿しています。
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うちのかわいいかわいい猫
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